兄貴へ
こうして兄貴に手紙を書くのなんて、何年ぶりだろう? ちょっと照れるな。書き出しをどうするかでずいぶん悩んじまった。
約束どおり、これから定期的に報告の手紙を出すよ。出発前にも言ったけど、各国の情勢がどうとか、あまりそういう難しいことは書けないと思うからそのつもりでな。兄貴は忙しいだろうし俺も移動が多くなるから、返事は無理しないで。まあ、くれるんだったらうれしいけど。
前置きはこれくらいにして、さっそく、今日あったことと今後の予定を書こうと思う。
この手紙はニケアで書いてる。これから海を渡ってドマへと向かうことになった。
最初は歩いて旧帝国領の方に向かうつもりだった。でも、運の良いことに、ニケアに寄港していた旅の商人の船に乗せてもらえることになったんだ。荷下ろしで手間取っていたところを手伝ったのがきっかけだったんだけど、その時に色々と話をしてたらえらく盛りあがってしまって、しばらく一緒に行動させてもらうことになった。
その人の船はドマを経由してジドール方面へと向かうらしい。その途中でモブリズの近くを通りがかるそうなので、そのあたりで下ろしてもらうことにした。
当たり前だけど、海路と陸路で世界を回ろうとすると大変だな。飛空艇ってすごく便利なんだなあって改めて実感したよ。
とまあ、こんな感じの内容でいいのかな? もっと書くべきことがあったら教えてくれ。
xxx年x月x日
ニケアにて
マッシュ
◆
マッシュ
手紙ありがとう。無事届いているよ。
事前に言ったとおりだが、俺は、お前から見た各地のようすと、お前が日々どのように過ごしているのかを知りたい。だから手紙を出してくれるよう頼んだ。
あまり気負わずに、その日あったことや思ったこと、気づいたことを自由に書いてくれればいい。
返事はなるべく出したいので、どこに送ればいいかを書いておいてくれると助かる。この手紙がそちらに行く頃にはもうお前はドマにいるだろうから、とりあえず今回はドマ城あてに送っておく。
船に乗せてもらえるとのこと、本当に運が良かったな。以前お前は、俺が「たらし」だと言ったことがあったが、個人的にはお前の方がよっぽど人たらしだと思う。
安全な船旅となるよう祈っている。
xxx年x月x日
エドガー
◆
兄貴
無事ドマに到着して、三日目の朝だ。
ドマ城の中には広い演習場があって、滞在中は修行に使わせてもらえることになった。今朝もそこで鍛練を済ませてきて、その後にこれを書いている。
城には、当然カイエンがいるんだけど、思いがけずガウとも再会できた。最近ドマでの復興作業を手伝っているそうだ。ガウも俺もすっかり嬉しくなってしまって、作業そっちのけでしばらく二人で走り回ったり組手をしていたら、カイエンにいい加減にしろと怒られてしまった。
ガウはすばしっこいのは相変わらずだったんだけど、最後に会った時よりも体つきががっしりしてきていた気がする。
ちなみに、ドマにはあと数週間ほどいる予定だけど、実はまだ確実なことが言えない。前の手紙で書いた商人(ここまで船に乗せてくれた人だ)が、買い付けの交渉? とかがあるらしくて、その都合によっては、早まるかもしれないし延びるかもしれない。
そういうわけで、もし返事を出してくれるのなら少し待っててくれないかな。予定が固まって、送り先も確実なことが言えるようになったら改めて知らせるよ。
xxx年x月x日
ドマにて
マッシュ
追伸 ちなみに、この間出してくれた返事はちゃんと届いてる。俺が「人たらし」? 俺は兄貴みたいに女の人をやたらと口説いたりしないんだけどな。M
◆
兄貴
今日はドマを発つ日だ。出発前にこれを書いてる。本当は昨日の夜書くつもりだったんだけど、いつの間にか寝てしまってた。
ドマでの日々もあっという間に過ぎてしまった。昨日の夜は、カイエンと、ガウと、それから城の人たちも集まって、送り出しということでちょっとした宴会を開いてくれた。いつもは静かなドマ城だけど、この時は酔っぱらったカイエンが歌を披露してくれたりして、とてもにぎやかだった。
兄貴は、カイエンが歌うのを聞いたことあったっけ? なんというか……なんて言ったらいいのかわからないけど、オペラとはまた違う迫力があってすごいよ。
出してもらった料理はどれも美味しくて、しかもたくさん食べさせてくれてありがたかった。ガウと俺とで何皿平らげたかな? 材料はどれも現地で採れた食材だって聞いた。この辺りの水質はかなり改善していて、作物もきちんと育つようになっているみたいだ。
なんてことを書いてたら、また食べたくなってきてしまった。現地の人が作るのにはかなわないけど、レシピは教わったから、フィガロに帰ったら近い材料をそろえて作ってみようと思う。兄貴には何としても食べてもらいたいんだ。
これから予定どおりにモブリズ方面に向かうから、手紙はそっちまでよろしく。
xxx年x月x日
ドマにて
マッシュ
◆
マッシュ
すでにモブリズに着いているかな?
カイエンもガウも、変わりなかったようで何よりだ。カイエンの歌は聞いたことがないが、「すごい」というのはいったいどういう意味でなのかが気になる。
それにしても、お前とガウの組み合わせは何かと怒られるな。ファルコン号の壁を破損させたとかでセッツァーにも説教されただろう。連帯責任と言われて俺もその説教に巻き込まれたからよく覚えている。
ドマ料理には詳しくないが、あの繊細な味わいをフィガロ近辺の食材で再現できるものなのだろうか。お前の記憶と舌と技術が試されるな。今から楽しみにしているよ。
腹いっぱい食べられるほどに収穫状況が改善しているのはいいことだ。このまま元の、水と緑が豊かなドマに戻ることを願ってやまない。
xxx年x月x日
エドガー
◆
兄貴
数日前にモブリズに着いてるよ。船に乗せてくれた商人とは、ここで別れた。そのうちフィガロにも立ち寄る予定って言ってたから、もしかしたらまた会えるかもな。
モブリズの村は、思ったよりも活気があった。なんでだろうと思ったら、ツェンやアルブルグから復興支援に来た人たちがそのまま定住したり、他の地域からの移住者も少しずつ増えてきているんだそうだ。今の時点ではまだ少なくても、大人たちがいることはこの村の子どもたちにとっては心強いと思う。もちろん、ティナにとっても。
ティナは元気にしているよ。子どもたちの世話や畑や花の面倒を見るので毎日忙しくしてるけど、楽しそうだ。移住してきた人たちともうまくやれてるみたいだ。
何か困りごとがないか聞いてみたら、壊れたままでまだ手を付けられていない建物をいいかげん修理したいらしい。それを手伝うので、ここにはしばらくいることにしたよ。とりあえず一月半ほどを見ている。その間の手紙はモブリズまで送ってほしい。
xxx年x月x日
モブリズにて
マッシュ
◆
マッシュ
ティナが元気に楽しく過ごしていると聞いて、心から安堵したよ。何より嬉しいことだ。よろしく伝えておいてくれ。
モブリズは人口が増えてきているとは聞いていたが、そういう事情からだったんだな。人が増えてくると何かと不便が出てくることもあるだろう。ティナだけでなく、他の村人にも何か困りごとがありそうだったら積極的に手伝ってくれるように、頼む。
あと、モブリズ近郊はまだ一部でモンスターが目撃されていると情報が入っているから、くれぐれも気をつけて。もしものことがあったら皆を守るように。
xxx年x月x日
エドガー
◆
兄貴へ
親父の命日くらいは城に戻りたかったけど、ちょっと今からじゃ間に合いそうにない。
だから、今回はこの手紙と一緒に花も送るので、俺の代わりに親父とおふくろに手向けておいてほしい。あと、顔出せなくてごめん、とも言っておいてくれないかな。
この花なんだけど、俺が事情を話した時に、ティナが送ることを勧めてくれたものなんだ。村のみんなで育てた花らしい。せっかく無事に咲いたのに、それをもらってしまうのはなんだか申し訳なかった。だから一度断ったんだけど、構わないと言ってくれたので、その言葉に甘えて少しだけ分けてもらうことにした。
気温とかの変化に強くて丈夫な花なんだって聞いてる。だから、すぐしおれたりはしないと思う。でも念には念を入れてしっかり包んでおいたし、急ぎの便で届けてもらうから、届いたらよろしくな。
今のモブリズはだいぶ緑も多くなって、かなり元の姿に戻りつつある。もしかしたら、前よりきれいかもしれない。見たらびっくりすると思うよ。
xxx年x月x日
モブリズにて
マッシュ
◆
マッシュへ
花をありがとう。親父もおふくろもきっと喜んでいると思う。なんと美しく強い花だろうと、ばあやがいたく感心していた。俺の代わりに、ティナや村の皆にはくれぐれも感謝を伝えてほしい。
俺も自分で花を選んで、今日、送ってくれたものと一緒に親父とおふくろのところに手向けてきたよ。お前が元気でしっかりやっていることも、ちゃんと二人に報告しておいた。
毎年この日は、じいやの思い出話が一段と長くなる。お前にもぜひじっくりと話を聞かせてやってほしいとじいやには言ってあるから、期待しておくといい。
モブリズにも、ドマにも、近いうちに直接足を運びたいものだ。お前の手紙を読んでいると色んな所に行きたくなるよ。
xxx年x月x日
エドガー