ブルメシアのこと、そしてダガーのことを考えると、ひどい焦燥感にかられた。しかし気持ちばかりあせって足が追い付かないようでは仕方が無い。
冷静に、冷静に。ジタンは努めて自分に言い聞かせる。
ギザマルークの洞窟に一刻も早く向かうために、チョコボの力を借りることにした。チョコボの森で出会ったチョコと、ギサールの野菜で周辺の草原から呼び寄せた二頭だ。
フライヤは慣れた様子でチョコボの背に飛び乗る。ジタンも早々にチョコにまたがる。そして、さあ出発だと後ろを振り返ると、ビビが自分の身長より背の高い生き物を見上げて立ちすくんでいるのが見えた。
どうしたと声をかけるも、返事がない。駆けだそうとしていたフライヤに少し待つよう目配せして、ジタンはいったんチョコから降りる。
「ビビ?」
ビビの前に立って待っているチョコボも、心なしか困っているように見える。
「もしかして、こわい?」
小声で聞いてみると、細い肩がかわいそうなくらい跳ねた。
「そんな……こ、こわくなんかない……よ」
最後の方はほとんど消え入りそうな声。表情は見えないけれど、これほどわかりやすい反応もそう無いだろう。
そのようすを見ていたら、落ち着かなかった気持ちがすとん、とあるべき場所に落ち着いたような。不思議な感じがした。
苦笑いして、まずは手もち無沙汰になっているチョコボの羽毛をくすぐってやる。次いで、ごめんなと胸のあたりを軽くたたくと、チョコボは不思議そうにしながらも小さく鳴き声を上げて、森の方へと走り去っていった。
そして、一連の流れをきょとんと眺めていたビビの軽い体をひょいと腕に抱え込む。
「う、わあ!」
驚きのあまり半分裏返った声にジタンはまた小さく笑い、そのままチョコに飛び乗った。硬直してしまっているビビを前方に座らせ、自分はビビの肩越しにチョコの後ろ首につかまる。
「これなら振り落とされる心配もないだろ? ちょっときゅうくつだけどカンベンな」
「う、うん……なんでわかったの? 振り落とされるかもしれないって思ってたこと」
「そりゃ、わかるよ」
チョコの首にしがみつきながらもこちらを必死に振り返ろうとしているビビに、見えているかはわからないがウインクひとつ。まだそんなことができる余裕が自分にあるのだと、ひそかに安堵する。
そして気合を入れてフライヤに呼びかけた。
「よっし! 待たせたな、フライヤ」
険しい表情で遠くの空を見つめていたフライヤが、ふ、と我に返ったようにこちらを見る。それからチョコに乗ったジタンとビビを見て、ほんの少しだけ、口元をほころばせた。
「ああ、行こう」