ブリッツボール大会期間中のルカでは、毎日花火が上がる。陰鬱な気分も吹き飛ばす景気の良い爆発音に、ジェクトは少年のように歓声を上げた。
「いいねえ」
微笑ましく眺めていたブラスカが、ジェクトに声をかける。
「ルカは年越しの花火もすごいんだよ」
「ほう? でもきっとザナルカンドも負けちゃいねえぜ」
「ザナルカンドの年越しはどんな感じなんだい?」
ジェクトはどことなく自慢げに語り始める。
巨大なモニターがある、街の中心部の広場。ザナルカンドの住民たちは、ともに新年を祝うべくそこに集う。広場では、日付が変わる十分前から、あと何分で新年を迎えるかのカウントダウンが始まる。
そして、年明けと同時に花火が上がるのだという。
「そしたら知らねえ奴とも抱き合って祝うんだ……こういう風に!」
「うわっ」
ジェクトの話を聞いていたところなんの前触れもなく勢いよく肩を抱かれ、アーロンはつんのめる。かろうじて踏みとどまり、すぐ横にある髭面を睨んだ。
「子どもか、あんた」
「あん中にアーロン放り込んでみてえな。おもしれえだろうなあ」
冗談めかしてけらけらと笑うジェクト。何も言わないアーロンの表情をうかがったブラスカが、苦笑い、というよりはやや愉快な笑い寄りに相好を崩した。
「ルカは例外だけど、スピラでは家族と静かに過ごす家が多いから、そういうのは慣れないかもね……アーロンも毎年うちで過ごしてくれてるし」
ブラスカの言うように、アーロンにとっての年越しは、ブラスカ親子と過ごす穏やかなものだった。
「……仮にあんたのザナルカンドに行けたとしても、年越しは絶対に街には出んぞ」
しても仕方のない仮定の話だ。そう思いつつアーロンはため息混じりにこぼす。
そうしてふとジェクトの方を見ると、なぜか、あっけにとられたような表情をしていた。しかし、みるみるうちに満面の笑みを浮かべる。
「そしたらよお、ウチでのんびりすっといい」
名案だ、とジェクトは腕を組んで深く頷く。
「カミさんも喜ぶぜ。ガキは……おめえのしかめっ面見て人見知りすっかもな」
それからジェクトは、アーロンからブラスカに視線を移し、強い口調で言った。
「そんときはブラスカもユウナちゃんと来いよな。絶対だぞ」
ブラスカは何も言わずに微笑んだ。
アーロンは、先ほどのジェクトのあっけにとられた表情の意味を理解した。
先ほどから今に至るまでジェクトが語っていたのは、単なる冗談や、現実逃避の夢物語ではない。痛ましいほどの心からの願いだ。その願いを、仮定の話という文脈であったとはいえ、アーロンが受け止めた。
そして、ジェクトの家で皆で過ごす、というジェクトの思い描く光景は、アーロンの願いでもあった。理由は違えど、おそらく同じくらいの強さで望んでいる。
成就してほしい、どうか。
無駄と知りつつ、そう祈らずにはいられなかった。